中南米のスペイン語 vs アフリカのフランス語
「スペイン語はスペインと中南米で主に話され、フランス語はフランスとアフリカの旧フランス植民地圏で話されている。」という認識が広く共有されている現実があります。確かに、今述べたことは間違ってはいませんが、この二つを単純に並べてしまうと誤解を生むことがあると感じます。
両言語が広がった経緯
両言語は、それぞれ名前から分かる通り、ヨーロッパの現在のスペイン、フランスがある地域で発展してきた言語です。これらが中南米やアフリカで使われている背景には、歴史的に植民地として支配されたという経緯があります。つまり、スペインは大航海時代にインドを目指す中で、あの有名なコロンブスが「新大陸」であるアメリカ大陸を発見した後に植民を開始しました。一方、フランスはヨーロッパ列強の「アフリカ分割」を通じてアフリカ各国を植民地化しました。両国は同一化政策を通じて、言語や文化を支配側の国のものに合わせようと試み、結果的に言語が広まることとなりました。
時間的な隔たり
しかし、これら二つの出来事には時間的な隔たりがあります。スペインの植民地化は16~17世紀にかけて行われ、スペイン語が安定的に広がっていったと考えられます。一方のアフリカ分割は19~20世紀にかけて行われました。コロンブスが「新大陸」を発見した1492年と、「アフリカ分割」のルールが決定されたベルリン会議が開催された1884年には約400年の差があり、植民地化に要した時間を考慮しても、これらには少なくとも200年以上の歴史の違いがあるのです。
具体的な違い
上記の理由から生じる中南米のスペイン語とアフリカのフランス語の違いを見ていきます。
中南米の国々ではスペイン語が母語として、日常会話から公式の場まで幅広い状況で話されていますが、アフリカのフランス語圏と考えられている国々においては、教育や行政をはじめとする公式な場面での使用に限られています。
イギリスの英語とアメリカの英語が違うことをイメージするとわかりやすいですが、スペインのスペイン語と中南米のスペイン語には大きな差があります。表面的には発音や語彙が異なることが挙げられます。また、中南米各国においても地域差があり、例えばメキシコのスペイン語とアルゼンチンのスペイン語は大きく異なります。これは、メキシコではメキシコ、アルゼンチンの人々がその文化を融合しながら長い時間をかけて言語が発達し、新しい語彙や表現が生まれていったからです。その他の国においても、中南米では各国が独自の言葉を持っていると言えるほど違いがあり、非常に多様な広がりを見せています。ただし、各国のスペイン語は完全に意思疎通が可能で、東京の人と大阪の人が話すくらいの感覚に近いと言えます。時々わからない語彙があり尋ねることもありますが、基本的には会話が成立し、慣れれば全く問題なくやり取りできるでしょう。
一方、アフリカのフランス語は主に公式な場面で用いられることからも分かるように、フランスで標準的であるとされるフランス語が用いられます。地域の文化に根ざした固有の語や表現が全くないわけではありませんが、今回のテーマである中南米スペイン語との比較においては、その多様性がないと言えます。そして、日常会話で家族や友達と話す際には基本的に現地語が使われます。そのため、あくまで母国語は現地語で、フランス語も一応話せるという人が多く、全員がフランス語を話せるというわけではありません。
アフリカフランス語圏においては様々な格差も存在しており、その一つに経済的な格差があります。多くのフランス語圏の国々では、学校教育がフランス語で行われており、子供たちは初等教育から高等教育までの過程でフランス語を学びます。しかし、教育へのアクセスが限られている地域ではフランス語の普及率が低いという現状があります。
また、都市部と農村部においても違いが見られます。都市部ではフランス語が広く理解され、話される傾向がありますが、農村部では現地語のみがコミュニケーション手段として使用されています。
もっと身近でわかりやすい方法でもこの違いを確認できます。Spotifyで各国の人気トップ50の曲がプレイリストになっていますが、中南米ではスペイン語の曲で埋め尽くされているのに対して、フランス語圏アフリカ各国ではフランス語の曲がほとんど見つかりません。
まとめ
このように、中南米のスペイン語とアフリカのフランス語では、いわばその浸透度に大きな違いが見られます。これらの二言語に限らず、言語の広がりや規模については様々な情報が飛び交っていますが、そのデータについては慎重な検討と批判的な態度が必要であることを確認したいと思います。
補足と提案
今回は中南米スペイン語圏におけるスペイン語の多様性を強調しましたが、中南米各国には植民化以前から話されていた現地固有の言語も残っています。例えば、メキシコのナワトル語、ペルーを中心とした地域に広がるケチュア語、パラグアイを中心として広がるグアラニー語には未だに一定数の母語話者が存在しています。そして、言語に限らず各地域の個性豊かな文化的色彩が中南米の特徴です!
また、中南米とスペイン語圏の国の繋がりを強調しましたが、ブラジルではポルトガル語、ベリーズ、ギニアやカリブの国々などでは英語やフランス語が用いられていることも確認しておきたいです。
アフリカといえば、北はアラビア語、または英語とフランス語が主流だと思う人が多いのが現実ですが、アフリカという広大な大陸は多様性と独自の言語・文化で溢れています。実際、アフリカは世界で最も言語的に多様な大陸であり、2,000〜3,000の言語が存在すると言われています。残念ながら、政治や経済が複雑に絡み合った歴史の中で、その姿は現在も影の部分に焦点が当てられる傾向があります。アフリカに関心を持ち、理解を深めたい方は、アフリカの言語を学ぶのも一つの方法です。時が進むにつれ、書店でも主要言語以外の語学教材が充実しています。30年後、本屋の語学教材コーナーがどうなっているか楽しみですね。アフリカの言語の入門書を書いているのは、もしかしたらあなたかもしれません。
